澄んだ空の下で
「じゃあ、どこ?」
「ホテル、とか」
「そーいうのは他の奴に頼めよ」
「そんな人、いない。恭がいいの」
「じゃ、何処だっていいだろ」
「だって。誰かに見られたらどーすんのよ」
「こんな所、誰も来ねーよ」
「…-――あっ、」
思わず口を手で塞いでしまった。
そのまま素早く抜け出す。
ほんとに、あれは恭だったの?
雰囲気が違い過ぎる。
でも、確かに、“恭”って、言ってた。
分かんないけど、切ない気持になった。
別に恭が好きってわけじゃないのに、胸が苦しかった。
だから、アオは係わんなって、言ったの?
ねぇ、なんで?
「あ、あれ?…若菜ちゃん、だっけ?」
暫く歩いた路地裏で、聞こえて来た優しい声にふと足を止め、視線を上げた。
目の前に居るのは覗き込むようにして見つめる…美奈子のお母さん。
「…あ、」
「やっぱ若菜ちゃんだよね」
コクンと頷くと美奈子のお母さんは優しくほほ笑んだ。
「どうしたの、こんな所で」
店の裏側だろうか。
美奈子のお母さんは大きなゴミ袋を隅のほうに寄せながら、あたしに視線を送った。