澄んだ空の下で
土曜の午後は何だか浮かない気分だった。
母に頼まれた仕事に向かう為、電車に揺られて店までやってきた。
ここは母が居る店じゃないけど、昔からお世話になってる店。
だから余計に断れなかった。
店が始まる1時間前。
次々と集まって来るスタッフに軽く頭を下げる。
「…あっ、若菜ちゃんっ!」
軽く弾けた声に視線が向く。
手を振りながら笑顔で近づいて来るのは、麗美(れみ)さんだった。
ここのオーナーの娘。
確か、まだ21歳だっけ。
久しぶりに見るその綺麗な顔に、あたしでも見惚れてしまうほどの美人。
「お久しぶりです。相変わらず綺麗ですね」
「え?何言ってるのー…若菜ちゃんこそ綺麗な顔してるよー」
「いえ、お世辞はいいですから」
「お世辞じゃないけど。最近さ、若菜ちゃん来ないから寂しいって言うお客さん多いんだよ?」
「え?あたしが?」
「そうそう。でさ、丁度一人休暇とったから手が回んなくてさ、だから若菜ちゃん誘ったの」
「そうですか」
「ごめんねぇ…」
「いえ」
麗美さんの頼みなら尚更断れなかった。
昔から仲良くしてもらってる大切な人だから、断るなんて事出来なかった。