澄んだ空の下で
でも、恭は何も言わなくて。
「ねぇ、何すんの恭。復讐って…殺しちゃうの?」
「……」
何故か心臓が驚くほどにドキドキした。
変な恐怖心が身体全体に広がった。
「ねぇ、恭…」
「……」
何処に視点を合わせてんのか分かんない恭の肩を軽く揺すりながら、少し空いているベンチに腰を下ろす。
「ねぇ、聞いてんの?」
「まさか。殺人犯なんてなりたくねーし」
「だったら何?」
「今更ながらに俺を後継ぎにさせようとしている親父が許せねーんだよ。これも全部、会社の為。会社の為に俺を使う事が許せねー…」
「……」
「何が俺の婚約者だ。ふざけた事言ってんじゃねーよ、マジで…そこまでガキじゃねーんだし自分で決めるっつーの」
千沙さんが言ってた。
婚約者が居るって。
ほんとだったんだ。
恭の口から聞くと、ちょっと苦しさを覚える。
ギュっと締め付けられる胸に手を当てて、あたしは一息吐いた。
いつか恭は言ってた。
“自分の事をどうでもいい”って。
“俺より上の奴らがいっぱい居っから俺一人居なくてもいい”って。
あの頃は、よく分かんなかったけど、今は分かり過ぎてなんだか怖かった。