ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
キングスリー家の屋敷に到着するや、子爵は早々に馬車から外へ降り立った。
御者に必要な荷物だけ降ろすよう指示し館に入っていくと、キングスリー家の人々が勢ぞろいして出迎えている。
メアリーが興奮にはちきれそうな様子で一歩歩み出ると、こちらに手を差しのべてきた。
「長い間お出かけでしたのね。もうあたしのことなんかすっかりお忘れになったかと、ずいぶん気をもみましたわ。ひどい方!」
「これは失礼を」
事実、完全に忘れていたのだが、彼はうっすら微笑を浮かべると、儀礼的に手を取り口づけるふりをした。
「お詫びに土産の品を少々持参しました。これでご機嫌を直してくださると嬉しいのですが」
入ってきた御者の抱えるいくつもの箱を見るなり、メアリーが喜びの声をあげる。
だが、もうそちらには見向きもせずに、彼は夫妻とともにサロンへ向かいながら目でローズを探した。だがどこにも見あたらない。