ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
ローズは思わず横を向いたが、彼の指が伸びて、また正面を向かされてしまった。
「で? 彼らのことを考える合間に、少しぐらいはぼくのことも考えたかい?」
彼の口調にはどこかはっとさせるものがあった。
ローズは今日会ってから初めて、子爵をじっくりと見つめた。そして胸を打たれた。
こんなに疲れたエヴァンを見たことがない。疲れなど知らない人だと思っていたのに、今の彼には明らかに濃い疲労の色が漂っている。
目元にくまができているのに気付き、また心が乱れた。
「わたしなんかのために、どうして……?」
ローズが言いかけるのを遮るように、彼はローズの左手をとり上げ、細い指を一本一本丹念に辿り始めた。
「この手をもう一度取るのに丸一年かかったんだ。ああ、長かったな」
深い嘆息と安堵の混じった呟きを耳にすると、それだけで決意が崩れそうになってくる。慌てて震える手を引っ込めた。
その後、彼は再び無言でビロードのシートにもたれかかっていた。
やがて果てしなく続く丘陵地の先に、木立に囲まれた小さな湖が見えてきた。