ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜

 レイクサイド・ガーデンは、文字どおり湖の辺に立つ小さいが瀟洒な、白亜のヴィラだった。

 こんな場合でなかったらローズもとても気に入って喜んだだろう。

 正面門横の小さな戸が開き、管理人と思しき中年の夫婦が顔を出した。

 前触れもなく主人が到着したことが分かると、大急ぎで中央の大門を開く。

 ヴィラの外見に違わず内装も美しかった。

 今流行の華やかな装飾模様が施され、その優美な曲線が中央の螺旋階段から壁の装飾、ガラス細工のランプシェードなど至る所に見られる。

 ローズはウェスターフィールド家の富を、改めて目の当たりにした気がした。取るに足らない自分を、もう一度強く戒める。

「まあまあ、旦那様。急なお出でで準備も何もございませんが、先にお風呂をお使いになられますか? それともお食事に?」 

 側に来た地味な衣服の婦人が彼に優しく問いかける。子爵の表情がなごんだ。

「ありがとう、サラ。久し振りだね。実は、今朝から食事もろくに取ってないんだ。風呂を使った後で、すぐ何か食べられるかな?」

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