ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
「それは大変! もちろんですとも、いそいで準備しますわ。こちらのお嬢様は……」
サラと呼ばれた婦人は、ローズを見て眉をひそめた。無理もないわ、と思う。
普段彼が同伴してくるレディに、こんな貧相な身なりの者は誰もいないはずだもの。
場の雰囲気を察したように、子爵はやや大袈裟にローズの肩を抱き寄せると、紹介した。
「こちらはミス・ローズマリー・レスター。ぼくのフィアンセだからね。くれぐれも粗相のないように頼むよ」
いきなり宣言されて、ローズは硬直した。
婦人も驚きを隠し切れない様子で、品定めするように数秒間彼女をまじまじと見ていた。だが、子爵に向かっては、
「それは存じませんでした。おめでとうございます」
それだけ言うと、丁寧にお辞儀して台所に立っていった。
子爵は馬車から衣装箱を下ろさせると、ローズを促し階段をゆっくりと上っていった。
「君はこの部屋を使うといい」
案内されたのは、明らかにヴィラの女主人の部屋と分かるような、美しい部屋だった。