ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜

 箱の中には美しいドレスが三枚、さらに下着やペチコート、コルセット、靴、靴下、留め飾りといった貴婦人が身支度を整える時に必要な装身具が一式そろっていた。

 ためらいながらも、ローズはドレスを一枚ずつ取り出してみた。

 襟と袖口に繊細なレース飾りがついた濃い緑のビロードのドレス、アイボリーのシンプルだが洗練されたデザインのサテンのドレス、そしてもう一つはラベンダー色の旅行用衣装だ。

 貴婦人の衣装……。エヴァンはこれを、わたしのためにロンドンから持ってきてくれたのかしら。

 心遣いは身にしみて嬉しかったが、素直に喜べない複雑な気持ちだった。自分のトランクがあればと思ったがまだ馬車の中だ。ローズはやむなくビロードのドレスを取りあげた。

 まもなく運ばれてきた湯桶で沐浴し身体の汚れを落とすと、気分も数段よくなった。

 ペチコートをつけ、恐る恐るドレスに手を通す。滑らかな金髪を櫛けずり、編み込んでドレスと同色のリボンでまとめる。

 鏡に映った緊張した面持ちのレディを見て、これが本当に自分かしら、と首をかしげた。

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