ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜

 はにかみながら、ゆっくり階段を降りていくと、待っていた子爵の目がぱっと輝いた。

 彼は満足げに微笑むと、エスコートするように手を差し伸べた。その手を取り、案内されるまま食事の席に着く。

 出された料理は急ごしらえとは思えないほどおいしかったが、ローズにはそれをゆっくり味わう心のゆとりがなかった。

 エヴァンはすっかりくつろいだように、ワインを飲みながら時々こちらに目を向けていたが、何も話しかけようとしなかった。

 ローズは、お茶のお代わりを断って先に与えられた部屋へ引き取った。


 なんだか夢でも見ているような気がする。でもこれは紛れもなく現実のことだ。

 炉辺にかがみ込んで軽快に踊る炎を眺めていると、ドアが開く音がして彼が入ってくる気配を感じた。

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