ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜

「同情してくれないのかい?」

「そんなことをおっしゃっているようでは、同情には値しませんわ」

 二人の間の緊張が少しほぐれた。エヴァンがふっと微笑む。

「君をここに連れてきたかったんだ。こんな形で実現するとは思わなかったけどね」

「子爵様、わたしは……」

「またそんな呼び方を。ぼくの名はエヴァンだよ。忘れないでほしいな」

 言いながらローズに近付こうとするが、彼女は数歩後ずさり首を横に振った。

「いったい何が問題なんだい?」

 子爵が苛立ったように問いかけた。だがローズは彼の顔を見て心配になる。

「かなりお疲れみたい……。どうか今夜はゆっくりお休みになって。明日お話しましょう」

「いやだね」

「そんな駄々っ子みたいなことを、言わないで……」

 たしなめるように言いかけた言葉が途切れた。彼がさっと手を伸ばし、細い身体をぐいと引き寄せたからだ。
< 89 / 261 >

この作品をシェア

pagetop