僕の可愛いお姫様
…のに。

お茶のグラスに手を伸ばした莉世が、腕時計を見て、急に焦り出した。

「わっ、いっけない。もうこんな時間!」

残りを猛スピードで平らげてお茶を飲み干し、バタバタと席を立ってしまった。

「ごめんねっ。これからバイトなんだ!」

引っ手繰る様に鞄を取って、駆け出す。
相変わらず慌ただしい。

ていうか、あれ?

「莉世、バイト始めたの?」

莉世の様子を別段気に留める事もなく、これまた黙々と海老フライを食す瑞穂に問う。

彼女はつい最近、アルバイトしていた本屋さんを辞めたばかりだった。
何にかは知らないが、資金繰りにでも専念する事にでもしたのだろうか。
いつもの莉世に比べると、アルバイトへの意気込みがヤケに強いな、と思った。

「さぁ?そんな話聞いてないけど。」

瑞穂も知らないみたいだ。
まぁ、いちいち報告する義務はないんだけど。

どこか腑に落ちないまま、黙って食べ続ける瑞穂を、莉世の時と同じ様に見付める。

口の中が痛くなったのか、瑞穂は一瞬、顔をしかめた。

「美味しいよね、しっぽ。」

チラリと私を見ただけで、瑞穂からの返事はなかった。
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