◇桜ものがたり◇

「お爺さま、私は、桜河のお屋敷を離れとうはございません。

 光祐さまと離れては生きて行けません」

 祐里は、八千代の胸のうちが手に取るように感じられ、

 何故、八千代の気持ちが分かるのかが不思議に思えた。



 庭では、桜の樹が風のない夜に

 ざわざわと大きく枝を揺らしていた。



「春樹も小夜と離れては生きていけないとわしに言ったものじゃ。

 親子じゃなぁ。

 あの時に春樹の願いを聞いて小夜と一緒にしておれば、

 春樹を失わずに更にそなたも得ていたと思うと、

 わしの先見のなさが悔やまれてならぬ。


 それにしても山里の娘が神の御子を産むとは大層珍しいことじゃ。

 春樹を失った現在、弟の冬樹では、神の森を守る力に欠いておる。

 この時期にこうして巡り合ったからには、祐里は、選ばれし者なのじゃ。

 春樹は、その任を怠ったがために神の森の逆鱗に触れて、

 命を落としたのじゃ。


 そなたも宿命には逆らえまい。

 それともそなたの子をわしに委ねてくれるか。

 優祐は、春樹の小さい頃によく似ておる」

 八千代は、容赦なく祐里に宿命を突きつける。

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