◇桜ものがたり◇
「お許しくださいませ。お会いしたばかりでございます。
お見合いのことすら旦那さまから伺ってはございませんし、
それに私は、まだ結婚など考えられません」
祐里は、光祐さまを想い、頑固に文彌の抱擁を拒絶する。
「まぁ、楽しみは後にとっておいてもいいか。
君はもう僕のものなのだから。
桜河の旦那さんは、乗り気になっているからね。
それはそうだろう。
後継ぎの光祐坊ちゃんの側にいつまでも君を置いていては、
間違いが起こってからでは遅すぎるもの。
それとも、もう、光祐坊ちゃんには抱かれたの。
それで日陰の女にでもなるつもり」
文彌は、立場からして自分の意のままにおとなしく従うと
思っていた祐里の頑なな拒絶にあい、
ますます祐里への恋情を滾(たぎ)らせていた。
「光祐さまに失礼でございます。
そのようなことはございません。
光祐さまは、精錬(せいれん)な兄上さまでございます。
それに、私は、ものではございません」
祐里は、初めて会った文彌から容赦ない侮蔑を受けながらも
(この方に怯むわけには参りません)
と、真っ直ぐに見詰めて言い返す。
「ふふっ、光祐坊ちゃんは、兄上さまか……
自分の立場を弁えているのならば話は早い。
僕は、君を正妻にしてやると言っているのだよ。
感謝してもらいたいね」
文彌は、必死になって受け答えをする祐里をますます愛おしく感じていた。