◇桜ものがたり◇
夕食の時間になっても、奥さまと光祐さまは、気分が優れないと
食堂に顔を出さなかった。
祐里は、食欲がないまま、旦那さまと二人だけで食卓に着く。
祐里の立場では、食卓に着かないわけにはいかなかった。
「祐里、文彌くんはどうだった。
しっかりした青年で、気に入ったことだろう」
旦那さまは、縁談の話にご満悦かつ食欲旺盛で、
にこやかに祐里へ話しかける。
祐里は、返事のしようがなく小さく頷いた。
「そうか、そうか、お茶の時間にも話が出たが、
先ずは婚約して女学校を卒業してから結婚というのがよかろう。
それとも、祐里が早く結婚したいのであれば、
結婚して榛家(はしばみけ)から女学校へ通わせていただくことも可能だ。
私は、文彌くんに望まれて嫁に行くのだから良い話だと思うがね。
良き伴侶に恵まれてこそ、しあわせになれるのだからね」
旦那さまは、優しい中にも諄々(じゅんじゅん)と祐里に説き聞かせる。
祐里は、良縁に喜び、結婚を望んでいる旦那さまの様子を
目の当たりにして、文彌から受けた侮蔑を口にできなかった。