◇桜ものがたり◇
「旦那さま、あまりに突然のお話で、
どのようにお答えしてよろしいのか見当が付きかねてございます……
私のことは、旦那さまに全てお任せいたします。
どうぞよろしくお願い申し上げます」
祐里は、旦那さまが祐里のしあわせを願っている気持ちを
充分に感じ、
旦那さまの前で涙を見せないよう心を殺して、
懸命に我慢する。
「そうか、そうか、私に任せてくれるか。
私は、祐里にしあわせになってもらいたい。
心配せずとも桜河家の娘として立派な支度をするからね。
榛家ならば家柄は申し分ないし、生活に苦労をする事もないだろう。
どうした、胸がいっぱいで食が進まないのかね」
旦那さまは、自分の都合の良いように考えて、
祐里の哀しみを遠慮した喜びと解釈していた。
「そのようなことは……
あの、旦那さま、
私が光祐さまより先に縁談を決めてよろしいのでしょうか」
光祐さまの伴侶が決ったとしても、できれば奉公人として、
桜河の御屋敷で暮らしたいと祐里は一途の想いを繋いでいた。
「光祐の心配は無用だ。
先ずは祐里が嫁いでから、光祐は、桜河家の後継ぎとして、
大学を卒業するまでには、
相応しい良家の子女と縁組をすることになるだろう。
そのためにも、祐里が先に嫁いで、榛銀行の後ろ盾ができて安泰だ」
祐里の視界には、無限の闇が広がっていく。
旦那さまは、上機嫌で、祐里の蒼白な顔色を気に留めないばかりか、
初めての見合いで気疲れし、
更に自分の眼鏡に適った好青年の文彌を気に入って、
胸がいっぱいなのだろうと解釈していた。