お風呂上がりの望遠鏡
ふと、初恋を思い出した。
私の初恋。
相手はスイミングスクールのコーチだった。
転校前だから、私が小学3年の時。
そのコーチの一挙手一投足に一喜一憂した。
いま思い出しても顔が赤らむほどに夢中だった。
真剣だった。
一所懸命だった。
だから、加奈ちゃんの気持ちはよくわかる。
でも、所詮、初恋は初恋。
儚い夢で終わるもの。
今の私だって、そう。
12歳の壁を乗り越えて、押領司クンと結ばれるなんて微塵も思ってない。
でも、この瞬間のドキドキを大切にしたいと思う。
私に向けられた笑顔に幸せを感じていたいと思う。
ふいに、初恋と押領司クンが結びついた。
そっかぁ。
押領司クンはコーチに似てるんだ。
私は謎を解き明かしたように、妙に納得し、頬を緩めた。