ポケットに婚約指輪

「明日の里中くんとの食事。ドタキャンして」


私の返事を聞く前に、刈谷先輩は会議室を出て行った。

動揺なのか焦りなのか、冷や汗が体から湧き上がって。


「……っ」


ようやく、唾が喉を通り抜け呼吸が出来る。


「どうしよう」


誤解だって言う?

でも完全な誤解じゃない。
少なくとも今までに、否定できない関係はあった。

刈谷先輩はもう、何も無かった目では私たちを見ないだろう。
そうであれば、ちょっとしたことですぐ勘ぐられる。

どうすればいいの。
焦りだけが沸きあがって、喉をかきむしりたくなる。

もしこの先、私が里中さんに恋をしたとしたら。

刈谷先輩は間違いなくこのことを彼に告げる。
そうしたら私は、彼に軽蔑されるだろう。


「……どうしよう」

泣きたくなっても、誰も助けてはくれない。

どうして相手のいる人と付き合ったりしたんだろう。
今になってそんな後悔をしても遅いのに。



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