ポケットに婚約指輪


「刈谷さん、あれからどう?」


最初に口を開いたのは、里中さんの方だ。


「あ、あれから休んでいて分からないんです。……あの日、何か言いました?」

「お礼とかそういうのはもういいし、仕事以外で他の女性と出かけるのは誤解されるからこれきりにしたい、って言った」


それは、里中さんに誤解されたくない相手がいるって言う意味にとれる。
やっぱり刈谷先輩は失恋で休んでいたの?


「……誤解って誰にですか?」

「さあ? 特に誰って事は無いけど。誤解されるとしても刈谷さんとは嫌だな。君のほうがいい」


最後の言葉に心臓が跳ねる。勝手に顔が赤くなるのも止められない。

ちらりと運転席を見ると、里中さんは正面を向いていたからほっとした。
だけど


「反応がいちいち可愛いよね」


続けざまにそんなことを言う彼に心臓が持たない。


「からかわないでください」

「からかってる訳じゃないけどね。まあいいや。今何言っても君には届かないから」


さらりとそんな言葉を言い、口元に笑みを浮かべたまま彼はハンドルを操作する。

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