ポケットに婚約指輪

 結局、刈谷先輩は二日続けて休み、私とは会わないまま週末を迎えた。

そして今日は里中さんとの約束の日。
私は朝から落ち着かず、クローゼットと洗面台を行ったりきたりしている。

何とか決めた服装は、無難を意識したためかやはり地味になってしまって。
あんなに時間をかけたのに、と自分が情けなくなる。

やがて10時少し前に携帯が鳴った。


『おはよう。多分近くまで来てる。外出てきてよ』

「は、はい」


里中さんの声に、浮かれる自分を止められない。

鏡の前で最終チェックをしたあと、頑張って靴だけはヒールの高いものを選んだ。


「おはよう」


里中さんは車の窓を開けてにこりと笑う。綺麗な深みのある紫の車だ。


「里中さん、車持ってるんですね」

「うん。俺ドライブが趣味だから」

「へぇ」

「今日は郊外のアウトレットに行こう」

「はい」


助手席には低反発のシートクッションが敷いてあり、座ると沈み込むような感覚があった。

車内は冷房が効いていて涼しく、どこと無く爽やかな香りがする。
とても清潔にしているんだ、というのが一番の印象だ。

カーステレオからはラジオが流れていて、会話が無くとも気まずくない。
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