ポケットに婚約指輪
そして思い出す。
『里中くん、婚約者と別れたみたい。今がチャンスかも』
そう自分に喝を入れるように言っていた刈谷先輩の声。
だけどあれって、もう一年くらい前の話だったと思うんだけど。
「婚約指輪……?」
ずっと捨てれずに持ってたって言うの?
今日みたいな、普段と違う鞄を持つような日でも?
肌身離さず?
……それを未練がましいとか、自虐的だとか言う人もいるだろう。
だけど私は共感してしまった。
「……っ」
ポロリと涙が一筋溢れる。
どんなに苦しくても、あなたと共有する空間に居たかった。
たとえそれが、あなたと私じゃない人の結婚式だったとしても。
憎らしく思うのと同時にひたすらに願ってた。
花嫁の席に座るのが私なら良かった。
彼の隣で誰よりも幸せそうに笑っていたかったのに。
負け惜しみに隠れた本音が、指輪によって引き出される。
「う、わ、うわあん」
あなたはずっと遊びのつもりだったのかもしれないけど。
私は本気だった。
本気であなたが好きだった。
ハガキをポストに投函した日から初めて、素直になれた気がする。
それはとても惨めで苦しかったけれど。
同時に自分が愛おしくもなった。