ポケットに婚約指輪

「覚えてないかもしれないけど。彼女は義理の兄貴が好きだった。でもずっと迷ってた。振り向いてくれない相手を思うより、俺との未来を考えようって思ってた時期もあったみたいだ。……それで俺がどうしたと思う?」

「えっと、どうしたんですか?」

「彼女を強引にこの部屋に連れてきて一緒に暮らした。とにかく相手から離して、俺だけを見てほしくて」

「……」

「彼女の生活の全てを、俺で埋めてしまえばいいと思っていたんだ。そうすれば、いつかは他の男なんて忘れるだろうって」


司さんの瞳が泣きそうに歪んで、胸がぎゅっと詰まる。


「強引に両親に会わせて、籍だけ入れてしまおうと思った。彼女の不安も疑問も、考えさせないように。結果だけを先に作ってしまおうと思ったんだ」


吐き出される本音は、彼自身を傷つけているよう。

司さんにも、そんな汚さがあったなんて。
それは、綺麗とは言いがたい私の心に、変な安心感ももたらした。


「でも意味が無かったんだよな。どれだけ形式で縛っても、体を重ねても。心を手に入れることは出来なかった」

「司さん」

「それが、実は結構トラウマになってて」

司さんの手が、私の頬に触れる。
大きな体がかがんで、私を上から見下ろしてくる。

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