ポケットに婚約指輪
「俺、あの店のマスター夫婦が大好きでさ、昔からあそこに通ってて。だから美亜ちゃんともずっと友達だったわけ。
美亜ちゃんとだったら、あんな夫婦になれるのかなって、……なんていうのかな、理想を当てはめちゃったんだよね。それで、付き合ってみない? っ話になって。
……でも、違ったんだよな。俺はマスターみたいに、相手の女性を尊重してあげられるタイプじゃないんだ」
「え?」
「好きになるとさ、自分の傍に押し込めていたくなる。とにかく独占欲が強いんだ、俺。
奔放な美亜ちゃんとは合わなかった。友達として話しているときには楽しかった会話も、恋人って言う立場になった途端ギクシャクした。だからすぐ別れたんだよ。お互いがそう思っていたから、円満な別れだったんだけど。
まああれから美亜ちゃんは、俺の彼女をやたらに分析するようになっちゃって」
「それで……」
「もしかしたら最初に連れてった時の印象が、綾乃に似てるって思ったのかもな。……あ、綾乃ってのは前の彼女なんだけど」
綾乃さん。
指輪の彼女の名前。
名前で聞くと急に現実感が出てくるのはなぜなんだろう。