ポケットに婚約指輪
「あ、おはよう。舞波くん」
刈谷先輩のその一言に、司さんの指が動揺したように動いた。
「おっす、里中」
「ああ」
「塚本さんもおはよう。二人一緒に来たのかよ、仲いいな」
「おはようございます」
平然とした表情で会話を続ける司さんの指先は、確かめるように私の指先を何度も撫でる。その仕草に、彼の本心が見えるようだ。
あなたはそんな風に、今までも私と舞波さんの会話を聞いていたの?
絡ませるようにして手を握ると、彼はその表情を緩ませた。
「さあ、今日も仕事だ。頑張ろうか」
「営業サンはやる気あるねぇ」
「人総がだらけてると社内が締まらないぞ」
「へいへい」
「じゃあ俺は先に行くから」
すっと指を離して司さんは足早に先を歩き始めた。
「あーやっぱり格好良いなぁ、里中くん」
「か、刈谷先輩?」
「里中くんみたいな人連れてきてよね、舞波くん」
「そりゃまた無理難題な」
舞波さんは困ったように頭をかいて、私に目配せする。でもどう反応したらいいのかわからなくて戸惑っていると、刈谷先輩が私の腕を掴んだ。
「頼んだわよ。さあ、菫、行くわよ」
「はい」
以前は職場での自分の立ち位置に迷うことがすごくあったけど、刈谷先輩と打ち解けてからはとても居心地が良くなった。