ポケットに婚約指輪
「予約してくれるなんて凄い」
「でも料理は決めてないんだ。席だけ。待たされるのがあんまり好きじゃなくて」
里中さんは私たちの目の前にメニューボードを並べる。
先ほどの女性店員がお水を持ってきて、微笑みながら私たちを見てる。
里中さんは、少し嫌そうな顔をして彼女を追い立てた。
「注文決まったら呼ぶから」
「はい。いやだ、里中さん、そんな冷たくしないでください」
「混んでるんでしょ?」
「ええ。でも注文が入らないと私は大して仕事が無くて」
「とにかく後で呼ぶから行って」
手で追い払われても、気にした風も無く彼女は去っていく。
その空気に、単なる客と店員以上のものを感じる。もともとお知り合いなのかもしれない。
「知り合い? 里中くん」
私が聞くより先に、刈谷先輩が不満げに問いただす。
「まあね。何度か来てる店だから。いいからほら、何食べる?」
何と無く誤魔化されたような感じが気にはなったけど、私たちはいつしかメニュー決めに集中していった。