ポケットに婚約指輪

 その後も、里中さんは色んな話題を出して、私たちを飽きさせないように気を使ってくれてた。

楽しくて食が進み、ついついワインも飲みすぎてしまう。


「おいしい。ふふ」

「菫? どうしたの?」

「刈谷先輩、楽しいですねぇ」


私、ちょっと酔っているのかもしれない。
なんだか傍にいる人に甘えたい気分。

刈谷先輩があんなに里中さんのこと好きなのも、分かるような気がする。

仕事ができて、気が利いて、優しくて。
一緒にいると、自分が特別になったような気分にしてくれる。

こんな人もいるんだなぁ。


「ちょっとごめんね」


里中さんがトイレに行くのか席を立ち、その隙を狙ったかのように刈谷先輩が私に耳打ちする。


「ねぇ菫、お願いだから協力してよ。この店でたら帰るって言って。そしたら私、里中くん誘うから」

「えぇ? 先輩ばっかりずるいです。こんなに楽しいのに」

「ちょっと菫? アンタ酔ってる?」


酔ってます。
だって、刈谷先輩に対してこんな強気に出れること無い。

ずるい。
それはいつも思っていたけれど、一度だって口に出したことは無かったのに。

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