好きと言えるその日まで
 施設から飛び出して、しばらくは走ってたけど……先輩が来てるわけもなくて、すぐに歩調を緩めた。


 正面を向いていた視線が、気が付けばどんどん下へと落ちて行って、地面が広がってる。


 ―――こんなはずじゃ、なかったのになぁ……


 たくさん、望んだつもりはなかった。


 ただ少しだけ、どうせならって思ってしたくなったことが、重なりすぎたのかもしれない。


 折角呼んでもらったのに、先輩にたくさん気を遣わせて悪いことしちゃったかも……って思いながら石ころを蹴った。


 「ったーー!!」


 当たり所が悪くて、親指の先が悲鳴を上げる。


 思わず蹲って小さく叫んだ。


 「石ころの、ばかーー!!」


 石ころが悪くないのは百も承知だけど、文句言わずにはいられない。


 蹴った先に佇む、いや、ただ地面に転がってる石ころを見て涙が出そうになってきた。


 もう、ダメかもしれない。

 
 嬉しくて嬉しくて、自分のことしか考えてなくて。


 タオル渡したり、お弁当作ってきたり……先輩に迷惑かけただけなのかもしれない。


 もう私のことなんて嫌になって、メールもしてくれないかもしれない。


 そんな風に思い始めたら、どんどん落ち込んできて涙がポタリと落ちた。


 「ふぅぅ……っ」


 なんでこんなに悲しくなってきたんだろう。


 そう思いながら痛めた親指のあたりを靴の上から擦る。


 到底効き目はないと思うけれど、そんな自分が惨めな気がして余計に落ち込みながら石ころを睨んでいると、自分の周りが急に暗くなって、頭上から声が落ちてきた。


 「おま……っ、何してんだ?」


 ぐちゃぐちゃな顔のまま見上げると、そこには汗が一筋頬を伝って流れ、少し息の荒い先輩が立っていた。


 「せん、ぱ……?」

 「ばっか。何泣いてんだよ」

 「へ―――?」

 「立てよ。……行くぞ。」

 「ひゃぁっ!」


 先輩は私の腕を掴んで立たせると、そのまま私の手を握って足を踏み出した。


 「あの、荷物」

 「いい」

 
 知らない間に私の荷物を反対の手に持っている先輩に、繋いでない方の手を差し出して返してもらうよう訴えたけれど拒否されてしまった。


 どうしたらいいのかと思いながらも、手を引く先輩についていかなくちゃと思って、ギュッと手に力を込めると握り返される。


 ドキドキしすぎて、足の痛みはどこかに吹き飛んでしまった。 
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