赤き月の調べ
目の前には、一人の男が立っていた。
驚きと緊張で、喉がからからに渇いてくる。
ただの冴えない容姿なら、希空もここまで驚かなかった。
たとえ容姿がよかったとしても、狼を見慣れているから大したことではない。
でも、男の容姿は完璧だった。
というより、希空にはそうとしか見えなかった。
少し長めの漆黒の髪に、色白の滑らかな肌。
赤茶色の瞳に、すっとした鼻筋。
官能的にも見える唇は、思わず見つめてしまうほど魅力的だ。
二十五年間の人生ではじめて、希空は異性を魅力的だと思った。
どのくらい見つめていたのか、男が苦笑まじりの咳払いをしたことで、はっとした。