赤き月の調べ


 目の前には、一人の男が立っていた。


 驚きと緊張で、喉がからからに渇いてくる。


 ただの冴えない容姿なら、希空もここまで驚かなかった。


 たとえ容姿がよかったとしても、狼を見慣れているから大したことではない。


 でも、男の容姿は完璧だった。


 というより、希空にはそうとしか見えなかった。


 少し長めの漆黒の髪に、色白の滑らかな肌。


 赤茶色の瞳に、すっとした鼻筋。


 官能的にも見える唇は、思わず見つめてしまうほど魅力的だ。


 二十五年間の人生ではじめて、希空は異性を魅力的だと思った。


 どのくらい見つめていたのか、男が苦笑まじりの咳払いをしたことで、はっとした。



< 29 / 43 >

この作品をシェア

pagetop