赤き月の調べ



 男の体が糸の切れた操り人形のように力なく倒れると、胸元から一枚の紙切れが落ちてきた。


 興味を持ったのと証拠を残したくない気持ちから、血で濡れた口元を袖で拭ってから紙切れを拾いあげた。


 紙はメモではなく、写真だった。


 誰にでも一人くらい大切な者はいる。


 仲睦まじく寄り添う男女の写真を想像しながら裏返して、彼は動きを止めた。


 気がつけば、ただでさえ少ない呼吸すら止めていた。




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