甘い蜜
「今日はありがとう!」
あたしは店の外で手を振り見送る。
「じゃあな」
片手をあげ立ち去る拓朗達の後ろ姿を見て、ホッと息をついた。
ーーーよかった。上手く断れた。
アフターなんて嫌いだ。
ご飯に行くだけのアフターだとしても、外で客とは会いたくない。
ちょうどそこへ、二人の客が来店した。
店の入り口に立つあたしとすれ違う。
その瞬間、甘い香りが鼻をかすめた。
振り返ると、二人組のうちの一人も振り返っていた。
そして目が合った。
ーーー綺麗な顔。
まるでここだけ時間が止まったかのようだった。
「翔琉!行くぞ」
でも連れの一言で、止まった時間は動き出す。
連れに翔琉(かける)と呼ばれた彼は、あたしから目を逸らした。
短髪の連れの後を追う、彼の後ろ姿。
あたしは、その後ろ姿から目が離せなかった。
何故かは、自分でもわからない。