甘い蜜
彼の後ろ姿が見えなくなってから、あたしはゆっくりと待機室へ向かった。
ーーーたしか、翔琉と呼ばれていた彼。
あの顔が、頭から離れない。
待機室に着いた所で、黒服に呼び止められた。
「雅ちゃん、指名きてるよ」
ーーー指名?
今日はもう指名客は来ないはず。
連絡も無しにやってきた指名客の顔が、思い浮かばない。
あたしは誰かわからないまま、黒服についていった。
ーーー…え?
案内された席を見て、あたしの足は止まってしまった。
そこには、さっきすれ違った二人組の男が座っていたから。
そして短髪の男の隣には、あたしの親友である凛(りん)がいた。
ーーーどういうこと…?
立ち尽くすあたしに声をかけたのは凛。
「みーちゃん、指名おめでとう」
そう言った凛の顔は、キャバ嬢の顔ではなかった。
ほんのり赤く染まった凛の頬。
一番仲が良い凛の事なら、あたしはよくわかってる。
今の凛の顔は、恋する女の子だった。