Love Songを君に【Ansyalシリーズ TAKA編】




「雪貴。
 それに……アイツも。
 隆雪も喜ぶと思うぞ。

 逆にお前がそれを諦めようものなら、
 隆雪は怒る気がするけどな。

せっかくのチャンスと向き合えない弱虫は
 必要ないってさ」




兄貴が怒鳴ってる姿が想像できて
思わず部屋から空を見上げる。






「託実さん……」


「雪貴、後悔しないように
 チャンスを掴んで来い。

 俺たち五人は、
 お前が成長して帰ってくるのを
 Ansyalのファンたちと待っててやるから」





心に仕えた問題の一つが
取り除けた気がした。





後の問題は唯ちゃん。




浮かぶのは、
不安そうに思いつめた唯ちゃんの顔。




「雪貴、
 唯ちゃんのことで悩んでる?」




見透かされたように紡がれた言葉。




「心配しなくても大丈夫だ。

 唯ちゃんの傍には、
 お前の代わりに俺や十夜が居る」



そうやって言われた言葉が、
俺の不安を掻き立ててることなんか
託実さんは知らない。




託実さんはいいよ。
百花さんが居る。


もう相方ありだ。





だけど十夜さんは違う。




あの人のプライベートは、
俺も一切知らない。



ライブの後の写真撮影の風景を思い出しながら
十夜さんになされるがままに狼に翻弄される
唯ちゃんがふと脳裏に現れて、
かき消すように首をふった。



「十夜さんは、いいです」
 


そうやって思いつめたように
告げた言葉に対して、
託実さんは電話の向こうで噴出した。



「何警戒してんだ?
 十夜は大丈夫だよ。

 唯ちゃんに手を出すなんてありえないから」



そうやって切り返される言葉を聞いている時、
玄関の扉がガチャリと開いて、
唯ちゃんの声が聞こえた。



「お姫様のお帰りだな。
 ゆっくり話し合え。

 お前が留学している時の唯ちゃんは、
 俺や百花でちゃんと気に掛けるから。

 頑張れよ」



そう言うと電話は切れた。



「ただいま、雪貴。
あっ、電話してたんだ。

 託実さん?」




荷物を置いて着替えを済ませた後、
そうやって声をかけながら
リビングに入ってくる唯ちゃん。



「お帰り、唯ちゃん。
 電話、託実さんだよ」

「晩御飯作らないとね。

 その後、部屋に戻らないで
 リビングに居て。

 話があるから」




そう言うと、唯ちゃんはダイニングで
手早く晩御飯を作っていく。


そんな唯ちゃんの隣、
同じカウンターに立って手伝いながら
チラリと唯ちゃんの横顔を見つめる。



一年間唯ちゃんに
逢えなくなるのは正直寂しい。



向こうに行っても、
毎日毎日、時差に邪魔されながら
電話しようと
必死になってるかも知れない。



だけどこの留学の話も、
今を断ったら次はない。



そう思うから。


だから俺はちゃんと
自分の言葉で
ありのままを伝えなきゃ。






あっという間に
晩御飯は出来上がる。








鶏肉の香草焼き。

野菜サラダ。

コンソメスープ。

きのこパスタ。




生クリームを混ぜた
ちょっぴり濃厚な唯ちゃん特製の
クリームソース風ふんわりオムレツ。





テーブルに並べられた
晩御飯を食べながらも、
俺はどうやって切り出そうかを
必死に考えていた。




晩御飯を食べ終わって、
洗物も終わった唯ちゃんが
リビングへと近づいてくる。





「雪貴、少し
 防音室来てくれる?」


そう言うと、唯ちゃんは
防音室の方へと向かっていく。


リビングの電気を消して、
防音室に向かうと、
唯ちゃんは俺のグランドピアノの蓋を
ゆっくりと開けた。

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