Love Songを君に【Ansyalシリーズ TAKA編】
「託実さん、雪貴です。
今、少しいいですか?」
電話の向こう、
スタジオでプロデューサー業務中なのか
スタッフたちに指示を出す声が聞こえた。
「悪い、指示出して来たからいいよ。
どうした?」
「今日、理事長室に呼び出されました」
「呼び出されたって、
今更、叱られたか?
Ansyalのバンド活動
無断でしてたから」
「それは大丈夫ですよ。
それに理事会から注意受けてるなら、
とっくに受けてますって。
それに今の理事会、
裕先生たちの姿ありましたよ」
「あぁ、そっか。
兄さんたちが居たら
うまく立ち回ってるよな。
そしたらどうして呼び出されたんだ?」
電話の向こう、スタジオを出て
自販機の前で買い物してるのか、
そう言った音が電話越しに伝わってきた。
「一年間……。
ウィーン留学の話が出たんです。
来月からウィーンに渡って、
九月から一年間。
去年、ピアノコンクールに出ましたよね。
あの時に、目をかけてもらったみたいで」
「一年か。
雪貴、お前はどうしたいんだ?」
「俺は……」
俺の思いは決まってる。
「俺は……行きたいです。
託実さん」
「なら迷うことないだろ。
活動停止中のAnsyalだ。
あと一年、
それぞれが自分のスキルアップに
時間を使っても問題はない。
違うか?
問題なのは、
今すぐにAnsyalを
再開することじゃない。
隆雪の死を乗り越えて、
想いを受け継ぎながら、決して
留まらない進化するサウンド。
ファンを飽きさせない、
絶望させないことだ。
新生Ansyalも、
いいバンドだって思って貰える
そんなサウンドを作り上げる。
それが今の俺たちに与えられた
課題だ。
その留学が雪貴を成長させてくれるものなら、
一年なんて長くはない」
一年なんて長くはない。
そう言って、
背中を押してくれた
託実さんの存在が嬉しかった。