いつか君に届け
17歳の誕生日
『慶太郎!おい!起きろ!慶太郎!起きろっつうの!』

『いってぇー!なんだよ大輔!』

『飯出来たぞ!早く起きろよ!今日はお前の誕生日だから稼ぎ時だな!慶太郎!早く食えよ!遅刻したらまた先輩に殴られんぞ』

『あー。つうか俺がナンバーワンなのに先輩だからってなんで殴られなきゃなんねーんだよ。しかも明らか俺の方がつえーのにあいつわかってないっすよね。俺が手出したらあいつ速攻くたばるぞ。いってぇーな!』

『慶太郎!お前絶対手を出すなよ!お前がいくらナンバーワンでも俺らはまだ17だ!先輩は先輩なんだよ。ママに迷惑かかるような事はするんじゃねーよ!歳だってごまかしてんだぞ!』

『わかってますよ!だから黙って殴られてやってるじゃねーか。マジ!ムカつくんだけど』

『お前は殴られて当然なんだよ!遅刻するお前が悪い。社会の常識だろ!早く飯食えよ!だいたい当番制なのにお前1度も飯作った事ねーよな!なんで俺がお前の飯まで作ってんだよ!』

『だってねむてーし俺料理なんかやった事ねーんだぞ。食えるかわからないもん食わされるより大輔だって自分で作った方がいいだろ?それに俺は外食でいいのに大輔が嫌なんじゃねーかよ!毎日の外食は体に悪いってどこの主婦の言葉っすか?』

『俺だってねむてーよ!俺もお前と同じホストだぞ!同じだけ働いてんだ!確かにお前の料理か何なのかわからねーもんは食いたくないけど外食ばかりは体に悪いに決まってるだろ!俺ら体壊したら稼ぎねーんだぞ。これだから坊っちゃん育ちは困るんだよ!』

『うるせーな!坊っちゃんって言うんじゃねーよ!俺とりあえず先にシャワー浴びてくるわ』

壮ちゃん!今日は七夕です。俺が生まれてしまって17年目になりました。俺と大輔はマンションを借りてもらって住む家に困る事はなくなり金も得ることが出来ています。もちろん家賃は自分達で払っているよ。大輔は隣の部屋を借りてるんだけど俺が家事なんか出来ないし色々と面倒見てくれてる。大輔とはなんだか兄弟みたいだよ。ホストになって初めての誕生日です。くだらないぐらいおめでとうって言われるんだよ。それでも我慢してなきゃならない。壮ちゃん!俺はどこへ向かっているんだろう。

『慶太郎!早くしろよ!行くぞ!やっと来年には俺達車の免許取れるな!早くしろって!電車行っちまうぞ』

『もうダルいよー!だからタクシー使えばいいじゃん!金はあるじゃねーか』

『いくら稼いでいるとは言えいつまた住む場所を失うかなんてわかんねーんだぞ!無駄遣いはやめろ!帰りはタクシー使ってんだから行きぐらい電車で我慢するしかねーだろ!』

『大輔くん!車の方が維持費かかると思うんすけど。免許なくても乗ってたじゃねーかよ!大輔は車が欲しいだけだろ。まあ俺の方が誕生日が先だから免許取るのは俺の方が早いな!』

『いやお前が教習所にまともに通えるとは思えねーから結局変わらねーと俺は思うけど!お前起きねーじゃねーかよ!お前は何ヶ月かかるんだろうな?俺が9月に誕生日だからたぶんお前が教習所さぼってる間に追い越しちまうと思うぞ!』

『あーそう。まあ確かに。免許取るまでがダルいよな。毎日酔い潰れてんのに教習所なんか通える気がしねー。休みを取って田舎の方行ってさ合宿で短期集中のコースがラクかもな?大輔も一緒に取りに行かね?』

『おーそれいい!仕事しながら教習所通いはキツイだろうしな。まあ言ってもまだ1年先の話しだ。だから金の無駄遣いはやめとけよ!俺達は親を頼らず自分達で生きていくしかないんだからな。だいたい慶太郎!お前の金銭感覚は異常だ』

『そうですね。でも俺のお小遣いで全員の酒やタバコも買ってやってたじゃねーか。なあ大輔!俺ら中学の時と今とではどっちが幸せなんだよ?』

『さあな。どっちも幸せなんじゃね?なんだかんだあっても結局生きていられるんだからな』

『生きる事は辛い事でしかないと俺は思ってるけど。大輔はえらいね。小さな幸せでも見つけられんだな』

『不幸だって思ってたって生きてる以上楽しみを見つける方がいいだろ。慶太郎!お前はなんでそんなに死にこだわるんだよ。お前が言いたくないなら言わなくていいけど生きる事も当たり前ではないんじゃねーの?俺達たぶん当たり前に生きていられるわけじゃねーんだと俺は思ってる』

『大輔!俺もそう思ってるよ。俺達は生かされてるんだってな。だから俺はしんどいね。俺の意思に反して俺は生かされてる』

『慶太郎!俺はお前が生かされてて良かったよ!お前と出逢えたからな!あっ!電車来るぞ!』

『あぁ。そうだな。おい!大輔!走るのかよ?次のでいいじゃん!マジか!ハアハア!疲れるから走りたくねーっつうの!あっ!千佳ちゃん?だよね。久しぶりだね。全然連絡くれないんですね』

『あっ!こんにちは。足は大丈夫だったんでしょ?だったら用はないじゃない。じゃあ私は降りるから。これからお仕事?頑張ってね。慶太郎くん』

『まあなんとか大丈夫みたいですけど心配ぐらいはしてくれんのかと思ってたんすけどね。千佳ちゃんも頑張ってよ』

『慶太郎!誰だよ?あんな子、客にいたっけ?』

『いやいねーよ。どう見てもホストクラブに通うような子じゃないでしょ。俺がナンパしたんだけどまったく相手にされなかった唯一の女だ。まあ俺も連絡してなかったんだけど。なんかこうも完全に相手されないと意地になりそうだな』

『かわいい子じゃん。まあちょっと地味と言うかおとなしい感じだけど。慶太郎が本気になるのはあーゆうタイプなんだろうな』

『はあ?俺は特定の女を作る気はねーよ』

壮ちゃん!今日は店で誕生日のお祝いだってたくさんのプレゼントを貰ったしいい酒もあけてもらって随分と稼ぎました。俺が17年間生きてしまっている中で今こうして自分でお金を稼ぐようになってわかった事が1つあります。お金で愛は買えないということを今日つくづく感じました。たくさんの人達におめでとうと言われて高価なプレゼントを貰っても俺は何一つ満たされていない。壮ちゃんが祝ってくれたチビの頃の3年間と最後に祝ってくれた13歳の誕生日が俺には1番記憶に残る誕生日でした。小学校の6年間は1度も誕生日を祝って貰えなくてもう俺も自分の誕生日を忘れていたぐらいだったもんね。そして今日迎えた17歳の誕生日は大勢の人達に祝って貰ったのに俺は虚しいだけでした。だからやっぱりおめでとうは言われたくないよ。壮ちゃんだって俺のそばにいてくれないのにおめでとうなんて言わないでよ。祝ってくれるんだったら俺のそばで祝ってよ。壮ちゃん!俺、壮ちゃんに逢いたい。17歳の誕生日は壮ちゃんにとても逢いたいと思う誕生日でした。
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