いつか君に届け
運命の再会
慶太郎が出て行って半年が過ぎた。慶太郎!お前はどうしてる?もうすぐ始業式だな。児童相談所を出て中学2年からの転校になるけど中学校生活を乗り越えていけそうか?いつでもいいから何かあったら俺に会いに来てくれよ。俺が出来る限りの事をさせてほしい。でも俺は不甲斐なく俺の力不足だったが為にお前の小学校受験を失敗させてしまったんだよな。そしてお前が自分の力で勝ち取った中学受験合格。その喜びに浸る間もなくお前は絶望の中にいたね。小学校受験に失敗したお前に待っていたのは両親の離婚。もちろん俺はお前のベビーシッターでもなく使用人でもなくなっていたから離婚したと知ったのはあの日お前と運命の再会を果たした時だったね。

『先生!救急車が到着します!』

『はい。心肺共にすでに停止だったね』

『はい!確認のみかと』

『付き添いはあの子?』

『はい。可哀想にまだ小学6年生みたいです。発見、通報共にあの子ですよ。高見慶太郎くんと言うそうです。亡くなったのはあの子の母親みたいですね』

『あー。わかった。ありがとう』

慶太郎!大きくなったね。

『なに?どうして僕を抱きしめてくれるの?あっ!先生の名札と同じ名前の人を僕知ってるよ。元気かな?会いたいよ。壮ちゃん!』

俺はお前の小学校受験が終わり契約通りお前の前から去ってその後勉強し直し落ちていた国家試験に挑んで医者になり救急外来に勤務していたんだよ。あの日突然運び込まれてきた女性と共にいたのは12歳になった慶太郎だったね。小さい頃の面影も残っていたよ。運ばれてきた女性は君のお母さんでとっくに息を引き取っていた。自殺だった。発見者、救急車への通報者もお前だったんだよね。よく1人で冷静に通報できたな。まだ小学校を卒業していなかったじゃないか。病院で長い間呆然と立ち尽くしているお前にいつ声をかけようかと何度も躊躇していた俺は本当に情けないよ。どんな言葉をかけたらいいのか見つからなかったんだ。だからいつまでも立ち尽くすお前に何も言えずただ抱きしめる事だけが俺の精一杯出来る事だった。そしてお前は両親が離婚した原因は小学校受験に落ちた自分が勉強を頑張らなかったからだと話し始めてくれたね。中学受験合格を目指し必死に勉強を頑張り離れて暮らす母親に私立中学合格を知らせる為に母親の元を訪れた事。数年ぶりにやっと会えると思い今度こそ喜んで褒めてくれると期待して向かったのに母親と遺体で対面したんだよな。数時間前に会いに行くと電話で話したはずの母親と。合格を喜んでもらえると思っていた母親に受験合格当日に自殺されたお前の心が壊れるのは当然だろう。俺でもきっと耐えられないよ。家で暴れまわるが為に幼い頃お前のベビーシッターだった俺の元へ君のお父さんが預かって欲しいとお前を連れてきて慶太郎と俺の生活が始まったんだ。その時のお前にはもう新しいお母さんと腹違いの小さな弟もいたな。お前が幼い頃にいた君の弟も随分大きくなっていて時間の過ぎ行く速さをとても感じた時だったよ。幼いお前が小学校受験を控えていても君の母親はお前に冷たく弟だけを可愛がりお前の日常生活から幼稚園や習い事への送り迎え等お前の生活全てを俺に任せっきりで優しい言葉すらかけずお前が視界に入る事を嫌がっていた。俺から見れば育児放棄で慶太郎を愛しているとはとても思えない対応だったけど受験勉強を頑張っているお前にある日お母さんは僕の事を嫌いなの?と尋ねられた時は本当に困ったよ。そんなことはない。お前が受験で大事な時期だからと言うのが精一杯のフォローのつもりだった。あの時に俺が抱きしめていたらよかった。抱きしめてやりたかったんだよ。それが出来なかった。ごめんな慶太郎!お前は生きろ。強く生きてくれ。
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