副社長は溺愛御曹司
今まで、気づく機会もなかったけれど、顔のつくりが整っているだけに、真顔のヤマトさんは、迫力がある。

私は気圧されて、うつむきそうになったのを、なんとかこらえた。

これは、わかってもらわなきゃ、いけないことだ。


ふとヤマトさんが手元に目線を戻して、再びキーを叩きはじめた。



「今後、気をつけるよ。おつかれさま」



こんなさみしい言葉、もらったことない。


どうしたの、ヤマトさん。

そんなに後悔してますか。


この悲しさを、どこにぶつけたらいいのかわからないまま、執務室を後にした。








すーず、と通用口で声をかけられた。

紀子だ。



「おつかれ、まだ仕事?」

「うん、夕食買いに出るとこ」



祐也とお別れした後、一度ランチに誘って報告すると、さすがにおおっぴらに喜びはしないものの、安心してくれたようだった。

お守りが効いたのかなあ、と言う紀子に、祐也の評価の低さを思い、苦笑がこみあげる。


ヤマトさんのことは言っていないけれど、異動については、オープンにして問題なかったので、伝えた。

飛び跳ねる勢いで喜んでくれて、ヤマトさんの力添えに感謝しないとね、と笑った。



「引き継ぎ、どう、順調?」

「うん。慣れてる人だから、ごくスムーズ」



ふうん、と駅までの道を歩きながら紀子がつぶやく。



「すず、ちょっと秘書に未練、あるでしょ」

「え…」



そう見えるんだろうか。

思わず紀子を見ると、さっぱりと美人な顔が、にやーと笑った。

< 101 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop