副社長は溺愛御曹司
「ていうより、ヤマトさんかな」
うわっ。
私って、本当にわかりやすいんだ。
顔が熱くなるのを感じて、暗くてよかったなあと思った。
「非常識にも、ほどがあるよね」
秘書やってて、ボスを好きになるとか。
自虐というよりは、心からの苦い思いでそう言うと、紀子があきれたように笑う。
「そういう余計なこと考えて、ふんぎりがつかないんだろうなって、想像してたよ」
「余計なことかな」
「かなり余計」
そ、そうか…。
私としては、プロ意識の薄い、浅はかな秘書という認定をされても、仕方ないと思ってたんだけど。
そういえばヤマトさんも、そんなふうには受けとらずにいてくれた。
「いいの、開発に来ちゃって」
「いいも何も、もう決まったことだし」
こんな消極的な発言しかできない自分が、情けない。
あれほど熱望して、ようやく実現した異動だっていうのに。
「ヤマトさんには気持ち、伝えないの?」
「それがねえ」
もう隠す必要もないので、好きだと伝えたことだけ説明すると、紀子が目を見開いた。
「それで、向こうは」
「うーん…、手ひどく振られたりは、しなかったけど。うまくはいかなかったよ」
自分の靴に目を落としながら、強がっているつもりはない言葉を吐く。
「だから、未練というほどのものは、ないの、もう」
そうなの? と少し疑わしそうに首をかしげつつも、一応は納得したようにうなずいてくれる。
来週から、いっぱい一緒にお昼食べようね、と言って、彼女は駅ビルの地下の食品売り場へ降りていった。
私の秘書生活は、本当にもう、あと数日。