副社長は溺愛御曹司
「16時からソフト2部の企画会議です。5分前にお呼びします」
「うん、いいよ、自分で時計見てるから」
またそんなことを。
水をあおりながら、ヤマトさんがエレベーターへ消える。
私は佐々木さんへ尋ねてみた。
「修正できる段階で、映像を見せていただくことは可能ですか?」
「書き起こしレベルなら、頼めばなんとか」
「その段階で、CEOに承認をいただいておきます。でないと、佐々木さんも休まらないでしょう」
ほんと、助かるよ、と泣きそうな顔で彼が言う。
それに笑いながら、いつ頃そのテキストをもらえるのかという相談をして、CEOづきの先輩秘書と調整しよう、と頭にとめた。
「神谷、こっち」
知った顔を探して店内をきょろきょろ見回していると、同期のひとりが奥の半個室から声をかけてくれた。
「ごめんね、遅れちゃった」
「大変だなあ、秘書は」
それを言うなら、休日出勤は当たり前、徹夜もなんのそのである開発のほうが、よっぽど大変だろう。
私は時間が自由にならないだけで、身体が忙しいわけではない。
トイレに行っているらしい紀子の席の隣に腰を下ろして、生ビールを注文した。
「今日、ヤマトさんがうちのフロアに来てたよ。すっかり副社長だね」
「えっ」