副社長は溺愛御曹司
「どしたの」
「ヒールが…」
助け起こしてやると、神谷のパンプスは、片方脱げていて、華奢なかかとが、床のカーペットの隙間にはまりこんでいた。
「あー、パネルがずれちゃってるかな」
「大丈夫です、私がやります」
神谷の声を無視して、ひざをついて、このフロア専用の、毛足の長いパネルカーペットを一枚、めくる。
社内中を駆けめぐる配線を格納するため、社屋の床はすべて二重構造になっている。
カーペットの下は、40センチ四方くらいの、パンチ穴の開いたスチールパネルが並んでいて。
それを持ちあげると、格子状のスチールの骨組みの間を、無数の配線が這っているのが見える。
このパネルがずれたすき間に、神谷のヒールがはまったのだ。
わりとがっちりはまってしまったそれを注意深く引き抜いて、はい、と渡してやると。
神谷は、申し訳なさそうに、恥ずかしそうに、その綺麗なベージュのパンプスを両手で受けとった。
女の子っぽいなあ、と考えながら、パネルの位置をもとに戻す。
神谷の半袖のブラウスは、さっき抱きとめた時、ワイシャツ越しにも体温を感じるくらい、薄手で。
華奢な二の腕と、脇腹のあたりの感触が、まだ腕に残っていた。
神谷には、彼氏がいる。
いや、彼氏かどうか知らないけど、そういう相手がいる。
なぜ知っているかというと、ヤマトには、そういう行為をした翌日の女性には、なんでか、ぴんと来るという妙な能力があるからだ。
別に、鼻を使うわけじゃないけれど、におい、とでも言うのが一番しっくりくるような感覚で。
神谷は、たまに、その「におい」をさせている時がある。
今日もさせてる。
朝、朝礼に行く際、一緒になった瞬間に、わかった。