副社長は溺愛御曹司
ゴンゴン、とガラスが叩かれる。
私はそろそろ舞いこみはじめてきた、取引先各社との忘年会のスケジューリングを中断し、立ちあがって廊下へ出た。
そこで見た、明らかに疲れている様子のヤマトさんに、これはどこかで休憩をとらせないと、と慌てる。
そんなに無理なスケジュールにはしてなかったはずなんだけど。
「あのさ、車、運転できる?」
「は?」
けれど、ヤマトさんが言ったのは、予想もしなかったことで。
「できますが…」
「午後の外出の時、行きだけでいいから、頼めないかな。俺、ちょっと寝たくて」
「ヤマトさんをお乗せできるほど、うまくないですよ」
実家が都内にある私は、ちょくちょく帰省し、そのたびに近所を車で走る。
だからまあ、できるといえばできるけれど、この会社には専属の運転手もいるのに。
たぶん、堅苦しいのが嫌なんだろう。
ヤマトさんは、眠そうに目をこすりながら、全然いいよ、と笑った。
「では、出発時刻を変更して、ご連絡しますね」
「ごめんね。小さいほうの車でいいから」
はい、と答えると、ヤマトさんは眠気に対抗するように肩のストレッチをしながら、部屋へと戻っていった。
そっか、寝不足か。
よかった、体調が悪いわけじゃなくて。
ゆうべは、CEOと昵懇の取引先に社長ともども呼ばれ、夕食とそのあとのおつきあいをしてきたはずだ。
きっと、夜更けまで抜けられなかったんだろう。
珍しい、彼がこんなふうに、自分の都合で私を使ってくれるなんて。
私は席に戻ると、イントラネット上で社有車の使用予約をした。