副社長は溺愛御曹司
「普通はできないよ。開発するだけで手いっぱいだし」
「そもそも、移植なんて最初から決まってたわけじゃないもんね」
結局その移植は、プロジェクトを立ちあげるまでもなく、モニタとデバッグのみの工数で済んでしまったんだそうだ。
なにそれ。
誰もがそんなことできちゃったら、この会社のプログラマなんて、ほとんど失業じゃないか。
「俺らにとっては、あの人は伝説のプログラマなんだよなあ」
「事業部長になった頃から、なかなか開発にがっつりは入れなくなっちゃったもんね」
紀子も、うんうんとうなずく。
伝説のプログラマ。
あのCSの番組を見る人のうち、いったい誰が、そんな彼の顔を想像できるだろう。
「神谷は、開発に来られそうなの?」
「希望は、出してるんだけど」
「この子、真面目だからさ。資格も、またとっちゃうし」
「何やってんだよ、それじゃ、いつまでたっても出してもらえないだろ」
だって…と声が小さくなった。
やるなら、上を目指したいんだもん。
少しでもいい秘書になって、役に立ちたいんだもん。
そのうち1級もとろうとか思っている私は、バカなんだろうか。
バカでしょ、とみんなにあきれられ。
じゃあどうするのがいいのよ、とすねた気分でジョッキに口をつけた。