副社長は溺愛御曹司
「聞いてる、聞いてる」
聞いてるの、という鋭い声に、条件反射でそう返事をした。
『じゃあ、火曜の夜ね。また連絡するわ』
「えっ?」
火曜って、なんだ。
尋ね返す前に、電話は切れて、ヤマトは呆然と受話器を眺めた。
自分は何か、適当な受け答えをしながら、また変な約束をとりつけられてしまったらしい。
たぶん、観劇とか、コンサートとか、そんなものだろう。
火曜って、来週のだろうか。
神谷に、空けといてって、言わないと。
夏休みなのに、連絡するのも申し訳ないけれど、伝えなかったことでトラブルでも起こった時のほうが、申し訳ない。
プライベートの用事、と伝えると、神谷はいつも、何もおっしゃらなくてけっこうですよ、て感じに、にこっとする。
まさか、母親につきあわされてるとか、思ってないんだろうなあ、と少し恥ずかしくなった。
「おふくろ、なんだって」
「親父の出張確認とか、そんな感じの」
「母さん、まだそのへん、やってんだ」
難を逃れた延大は、晴れやかな笑顔で、次のビールを勧めてきた。
和之も、余裕の表情で笑っている。
ヤマトは、あと数年したら、こういうの全部、お前に回してやるからな、見てろ、と大人げない思いを抱いた。
父親と、息子のどれかが一緒に出かける時。
出先から、母親に電話をする義務が、なぜか息子たちには発生する。
いい歳をして、父にベタ惚れな母の、まあ可愛い偵察みたいなもんなんだろう。
最近では、出張でヤマトと父親が遠出をすることが増えたため、次はいつかと、しょっちゅうチェックが入る。
籍が入ってないと、逆に冷めないもんなのかな、と息子たちは、不思議に思うのだった。