副社長は溺愛御曹司
「よっ。なんだよ、ごきげんだな」
「だってさあ、聞いてよ」
帰社したところに、ちょうど兄がやってきた。
神谷のメモを見せて説明すると、延大もおかしそうに笑う。
「神谷ちゃんは、ぽやんとして見えて、意外と冷静な目を持ってるよな」
「優しいくせに、鋭いんだよ」
「そうじゃなきゃ、務まんないんだろ、お前みたいな厄介なのの、秘書なんて。はいこれ、先方からの留意書」
ありがと、と受けとって、さっそく開けた。
年明けからの業務提携に向けて、着々と準備が進んでいる。
これがうまくいけば、一気にサービスの枠も広がり、社内環境の充実も一挙に実現できる。
就任してから、じき半年。
ようやく、この立場を楽しむ余裕が出てきた。
とにかく、決められることが多い。
多すぎて、怖い。
「やろうよ」と言ったら、それが実現してしまうのだ。
その実現の陰には、無数の従業員の苦労があり、努力がある。
うかつなことは言えない、と今さら学んだ。
書類をざっと見て、そう大きな問題はなさそうなので、回覧する時間を省こうと、コピーして杉田社長と同時に見ようと考えた。
神谷にコピーを頼もうと、兄と一緒に部屋を出ようとしたところに、ちょうど彼女がやってきた。
急ぎでない書類は、一日に2度、こうして神谷が持ってきてくれる。
朝はフォーラムに直行したため、今日、彼女を見るのは、これが初めてだ。
ちょうどよかった、と声をかけようとして、ぎくっとした。
「におい」がする。
「何か、お預かりしますか?」
「うん、これ、コピーして、杉さんに回してほしくて」