副社長は溺愛御曹司
上着を脱いだワイシャツの肩はほどよくたくましく、いまだにジムで泳ぐのが好きという身体は、無駄がなくて綺麗だ。

兄弟の中では、たぶん少しだけ小柄だけれど、それでも一般より高い背丈は、バランスがよくて。

名前にぴったりの、すっきりと和風に整った男らしい顔立ちは、少しの野性味がある。


寝ているのをいいことに存分に観察すると、私は半地下の駐車場から車を出した。



そういえばこの車、ウインカーとワイパーが逆だったんだと慌てながら、昼の道路を走らせる。

行き先は都内のホテルだ。

社長の代理で、レセプションと、そのあとに続くパーティに出席する。

気の毒に、そういう肩のこる場所は大嫌いな人なのに、立場上、避けられない。






ふと、前を走っていた軽自動車のブレーキランプが点灯し、車の流れがとまった。

この先に、回転の悪い複雑な交差点があるのだ。

私はそれを避けようと、横道へ車を入れた。



「この抜け道、知ってるんだ」



いきなりうしろから声がして、ぎょっとした。

ルームミラーで確認すると、少し眠気を残した顔と目が合う。



「まだかかりますよ、お休みになっていてください」

「このへん、詳しいの?」



目が冴えてしまったのか、伸びをしながら訊いてくるのに、はいと答えた。



「実家が近いんです。通っていた小学校が、もうすぐ見えますね」

「えっ、マジで。俺もこのへんだよ」

「えっ!」


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