副社長は溺愛御曹司
綺麗な足取りで、すたすたと廊下を歩く神谷に追いついて、弁解してみても、とりつく島もない。

こうなった神谷って、ほんと頑固だからなあ、とため息が出る。


散々ヤマトを悩ませ、落ちこませた、あのホテル来の一件も。

終わってみれば、全部神谷の思いこみと勘違いがもとで。

ヤマトに相手がいると勝手に誤解し、よりによってそれが母親だと勘違いし、あげく、好きだという言葉も信じず。

流されやすいくせに、どうしてそう変なところでめちゃくちゃ頑固なんだろう、とヤマトは首をひねった。



「神谷が妬くこととか、何もないし」

「私、妬いてるんですか」

「違うの?」

「ヤマトさん」



並んで歩くヤマトを、急に振りあおいだ神谷が、足をとめて、にこっと可愛く笑う。

あれっ、許してくれた? と気がゆるみかけたところに、神谷の冷ややかな声が飛んだ。



「邪魔です」



給湯室への入り口をふさいでいたことに気がついたヤマトは。

いっそこのまま通せんぼしてやろうか、と苦々しい気持ちになりながらも、素直によけて、道を譲る。


あーあ、と気分が落ちこんだ。

流しにカップを置く、無言の背中が、怖い。


実は、似たようなことは、前にもあった。


お互い、実家が近所なため、正月早々から待ちあわせて、遊びに出ることができた。

まだ三が日も明けない頃だったので、ぶらりと立ち寄った神社で、大学時代のヤマトの、その、そういう相手に遭遇したのだ。


特にうしろめたくもなかったヤマトは、あれ、と普通に挨拶し。

男連れだった向こうも、久しぶり、とかそんな感じで、言葉を交わしただけだった。


なのに神谷は、その嗅覚で、以前の関係を感じとったらしく。

帰る、とは言わないまでも、すさまじいばかりの軽蔑の眼を、ヤマトに向けてきた。
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