副社長は溺愛御曹司
秘書の去ったドアを視界の片隅に入れながら、再び、PCの画面に目を戻す。

ほおづえをついていた手を、前髪にうずめた。


神谷。

俺、へこんでるんだよ、わかる?


怒ってる気でいたけど。

違うんだよ、俺も最近、気がついた。


神谷に、そんなふうにされてるのが、どうにもさみしくて、悲しいんだよ。

だけど、どうすることもできなくて、それに、腹が立つんだ。


ねえ、神谷、俺に何を伝えたいの。

その態度には、どんな意味があるの。



いつの間にか、目は、もう議事録を追ってはおらず。

トピックの最終更新者である「Suzuko Kamiya」の名前だけを認識している。

ほとんど無意識に、その名前の上にカーソルを走らせては、色を反転させている自分がいた。



神谷。

ちゃんと、話したいよ。








「綺麗な方でしたね」

「神谷のほうが、可愛いよ」



本心から言ったのだけれど、神谷は冷たく、そうですか、と一瞥を投げてきただけだった。

業界誌のインタビュアーが、たまたまヤマトと、その、以前ちょっと、あれこれあった女の子で。

いや、もう子って歳じゃなかったけれど、まあ、ヤマトから見たら、高校の時のイメージが重なって、今でも女の子という感じで。


即座に関係を感じとったらしい神谷は、さすが、来客の前ではおくびにも出さなかった蔑みを、終わってから遠慮なくぶつけてきた。

神谷って、ものすごく勘のいい時と、どうしたのってくらい鈍い時があるよなあ、とヤマトはのんびり考える。

コーヒーカップをトレイに乗せて運びながら、見本として渡された数冊の業界誌を小脇に挟む神谷に、持つよ、と申し出ると。

けっこうです、とにべもなく断られ、一緒に応接室を出ようとしたヤマトの鼻先で、バンと音を立ててドアが閉まった。



「しょうがないじゃん」

「何がですか」

「しちゃったことはさ」

「何をですか」

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