副社長は溺愛御曹司
こまこました道を運転中だったので髪を直せずにいると、悪い悪い、と彼が適当に指を通してくれた。

私、絶対に顔が赤いんだけど、話が盛りあがったせいだと思ってもらえるだろうか。



「延大さんと、和之さんは?」

「兄貴は私立で、カズは国立大付属。あそこに通ったのは俺だけだよ」



うわあ、ますます偶然を感じる。

そこからの道中、私たちは部活やヌシと呼ばれていた教師の話などですっかり盛りあがり。

到着した時、ヤマトさんは結局十分に寝そびれたことに気がついたらしく、しまった…とふくれて私を笑わせた。



「お帰りの際も、お迎えに上がります。そこでお休みになってください」



ホテルの前の車回しでそう提案すると、車から降りようとしていたヤマトさんは。

嬉しそうに笑って、でも首を振った。



「もっと大事な仕事、あるだろ」



ドアマンが閉めたドア越しに、バイバイ、とヤマトさんが手を振る。

あのね、運転手に向かってそんなことしてる人、いませんから。



それとね、ヤマトさん。


ありません。

もっと大事な仕事なんて、ありません。



私にとって、こうして直接あなたの助けになれることほど。

大事な仕事は、ないんです。



わからずや。







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