副社長は溺愛御曹司
玄関先の姿見で全身をチェックしていると、祐也が廊下に顔を出した。

少し髪が伸びて、雰囲気が落ち着いた以外は、高校時代と変わらない。

明るいんだけど、少しシニカルで毒舌で、陰の人気者だった。



「行っといで」

「うん」



私の朝は早いので、向こうの出勤時間にはまだ間がある。

寝乱れた髪をかきあげながら、軽いキスをくれる。

私のグロスがついてしまった唇を指で拭ってあげると、笑いながらその指にもキスをくれた。


でも、今日帰ったら、いないんだろうね。

どんなに待っても、来ないんだろうね。



待たないけど。



すぐ隣の駅は都内、というこの駅は、便利だけどまだ知られていないため家賃もリーズナブルという穴場で。

まだ活気づく前の商店街を抜けて、私は駅に向かった。





私は、先日来、心に決めていることがあった。

ヤマトさんに、自由時間をつくろう。


ひとつ予定が入るほどの時間じゃなくて。

けど、少しゆっくりPCに向かえるくらいの時間で。


そういう時間を、一日の執務時間のうち、どこかに必ずつくってあげよう。


同期たちの話を聞いて、わかった。

彼は、本当にプログラミングが好きなんだ。

だとしたら、外交や経営に頭を悩ますばかりの今の職は、さぞ窮屈に違いない。


それならば。

せめて少しでも、毎日必ずソースにさわらせてあげよう。

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