副社長は溺愛御曹司
「2の10乗だろ」
「は…」
「千二十四」
ああ…と納得がいった。
この人、プログラマだもんね。
私は開発部門じゃないけれど、それでもなんとなく感じる。
システム関係の仕事に携わる人は、どうしても2進法でものを数えるほうが、しっくり来るようになるらしい。
1、5、10、15…ではなく。
2、4、8、16…と増えていくほうが、彼らには自然な感覚なのだ。
15より16のほうが、30より32のほうが、彼らにとっては「綺麗な」数字に思えるらしかった。
ヤマトさんの感覚は、まさにそれだ。
「2進法で表記したら、1のうしろに0が10個だよ。そのまま10進法で読んだら、100億だ」
「はあ」
「1メガバイトだって、1000キロバイトだと思ってる人多いけど、実は1024キロバイトなんだよ。いい誕生日じゃん」
いい誕生日か?
そう首をひねりつつも、あまりの「らしさ」に、笑ってしまった。
呆然とするばかりだった私がようやく笑ったのに満足したのか、ヤマトさんが椅子に背を預けて、脚を組んだ。
絶妙のタイミングで、どこからともなくメートルがやって来て、シャンパンを開け、注いでくれる。
CEOたちと別の車を用意し、私に運転させなかった理由が、これでわかった。
「神谷は、飲めるほう?」
「うーん、弱くはないです」
それ、強い奴の答えだなあ、とにやりとしながら。
乾杯、と、グラスではなく、その脚を持った指同士を、コツンと触れあわせてきた。