副社長は溺愛御曹司

「2の10乗だろ」

「は…」

「千二十四」



ああ…と納得がいった。

この人、プログラマだもんね。



私は開発部門じゃないけれど、それでもなんとなく感じる。

システム関係の仕事に携わる人は、どうしても2進法でものを数えるほうが、しっくり来るようになるらしい。

1、5、10、15…ではなく。

2、4、8、16…と増えていくほうが、彼らには自然な感覚なのだ。


15より16のほうが、30より32のほうが、彼らにとっては「綺麗な」数字に思えるらしかった。

ヤマトさんの感覚は、まさにそれだ。



「2進法で表記したら、1のうしろに0が10個だよ。そのまま10進法で読んだら、100億だ」

「はあ」

「1メガバイトだって、1000キロバイトだと思ってる人多いけど、実は1024キロバイトなんだよ。いい誕生日じゃん」



いい誕生日か?

そう首をひねりつつも、あまりの「らしさ」に、笑ってしまった。


呆然とするばかりだった私がようやく笑ったのに満足したのか、ヤマトさんが椅子に背を預けて、脚を組んだ。

絶妙のタイミングで、どこからともなくメートルがやって来て、シャンパンを開け、注いでくれる。

CEOたちと別の車を用意し、私に運転させなかった理由が、これでわかった。



「神谷は、飲めるほう?」

「うーん、弱くはないです」



それ、強い奴の答えだなあ、とにやりとしながら。

乾杯、と、グラスではなく、その脚を持った指同士を、コツンと触れあわせてきた。

< 48 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop