副社長は溺愛御曹司
お互いビールで乾杯をして、近況報告などをぽちぽちとする。



「開発に、行けるかもしれないの」

「やったな。ずっと希望してたもんな」



素直に喜んでくれる祐也に、私はちょっと甘えてみたくなった。

人事情報なので紀子には話せないこの件も、社外の祐也になら、聞いてもらえる。



「でも、今の仕事も、やっぱり面白いの。それで、ちょっと迷ってて」

「ヤマトさんと離れたくないんだろ?」



すばり言われて、私はジョッキに口をつけたまま目を見開いた。

にやりと笑う祐也と、目が合う。

あれっ、それってそんなに、わかりきったことだった?



「すずは、わかりやすいから」

「でも、私、別に、ヤマトさんのこと…」

「ただ、一緒にいたいんだろ。そういうのって、あるよ」



あるの?

じゃあ、そういう時は、どうすればいいんだろう。

祐也が、そこからは知ったことではないというふうに肩をすくめる。



「考えるしか、ないよな」

「そうだよね…」



知らず、重々しい声が出た。

私、自分がどうしたいのか、今真剣に考えないと、ものすごく後悔する気がする。

けど考えたところで、もう人事部も動いているのに、やっぱり開発行くのはもういいですなんて、そんなの許されるんだろうか。

でもこのままゆらゆらと開発に行っても、私はその仕事を満足に成しとげられないんじゃないかって気もする。


考えないと。

私、考えないと。



運ばれてきた食事に手をつけながらも、上の空で考えごとをしていると、祐也が呼んだ。

なあに、と生返事をしたら、お取り皿に添えていた左手を急につかまれた。

びっくりして、正面の彼を見る。





「俺たち、もう一回やってみよう」




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