副社長は溺愛御曹司
しばらく見たこともなかったような、真剣な顔に。

私はお箸をくわえたまま、ぽかんと固まった。


ないでしょ、とか。

何言ってるの、とか。


そんなふうに、簡単には流せない雰囲気だった。

どうしたの、祐也。



「今まで、さんざんすずを振り回してきたことはわかってる。俺、実際、相当勝手なこと、してたし」



手を重ねたまま、祐也がまっすぐ私を見る。

私の好きだった甘い目が、少し悔いているように、険しい。



「だから、これが最後だと思ってるよ」

「…最後って?」

「ダメなら、二度と会わない。でも、もしやり直せるなら、俺は」



その先もずっと、すずといたい。


私は、口の中のものを、飲みこむこともできなかった。

それって。


目をそらすこともできず、長い沈黙が下りたあと、祐也が、ふっと微笑んだ。



「返事は、すぐじゃなくていいよ」

「祐也…」



握られていた手が、すっと離れていった時、ようやく気がついた。



彼が、ものすごく緊張していたことに。

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